湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

その花が咲いたら、また僕は君に出逢う 総評感想

その花が咲いたら、また僕は君に出逢う 感想
※ネタバレ注意 
執筆者:やーみ @suxamethonium28

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Abstract
・全体的には満足
・幼少期のエピソードを充実させる余地あり
・魔法レベルに関しては都合が良すぎる印象
・テーマソングが会心の出来

 

 
 さて本作はCampusから無料で公開されている。Extraモード及びAfterstory・R18シーンは有料である、という販売形式である。筆者のようにR18シーンを基本的にスキップする人種にとっては非常にありがたい販売形式であるのは事実だ。下述するがテーマソングを非常に気に入ったので、本作は有料購入するかもしれない。

 

 最初に本作の非常に良い点を挙げておく、それは永瀬(ヒロイン)視点による明け透けな好意と逡巡とが読者に公開されたことである。

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青背景は永瀬視点


 恋をしている女の子というものは抜群にAttractiveである(私見)。エロゲと少女漫画とは少女の心的機微を濃厚に描写するという点に於いて極めて類似する要素を孕んでいると考えている(私見)。エロゲシナリオおじさん先生(多分保住圭氏@hozumikが記載している「保住はこうやってエロゲシナリオを書いています」同人誌記載の内容と推定される)も指摘するところ(1)のようである。

 

 さてこの恋する乙女をしっかりと描写する方法としては、ヒロイン視点を出してしまうのが最も素早いであろう。永瀬がメッセンジャーアプリで勾坂に送る文面を悩んでいる光景はまさに「いとあはれなり」といった様相であったと考える。大層魅力的なヒロイン像を堪能させてもらえた点はとても筆者を満足させた。

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わたしやーみ! 女の子がキュンキュンしているのを見るのが大好き!

 

 さてこの物語を端的に要約してしまえば、以下の通りである。(主人公=勾坂 ヒロイン=永瀬)
1:永瀬は幼少期魔法を秘匿するために自ら孤立した

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2:その孤立した永瀬に勾坂が介入した
3:勾坂を励まそうとした永瀬が魔法を行使したが、魔法が暴走
4:勾坂が致命傷を負ったが、永瀬が「勾坂との想い出」を代償として救命した(この際に魔法使いへの条件である「失恋」を満足した)

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代償というか、失恋することで魔法使いになって勾坂を救助するという、初恋・シンドロームにもあった展開ではある

5:時を経て偶然再会。永瀬は打算もあったが、勾坂は再度永瀬へ懸想し、永瀬は再度勾坂への想いを募らせる

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ここの無音演出、ありきたりだがとても良い

6:勾坂が再度魔法の存在を認識。魔法隠避+勾坂を魔法使いである自分から遠ざけるため永瀬は学園全体から自らの存在を消した

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実は魔法の効果音がそこそこダサい

7:愛の力で勾坂は魔法を突破。再度逢瀬し、晴れて恋仲へ至った。

 

 飛び道具としては永瀬の罪業感のみであり、ストーリーギミックとしてはあまり多くはない。元よりロープライスの作品であり、複雑なギミックを用意している余裕はなかったのであろう。

 

 さて不満点を挙げておこう。ロープライスの作品の宿命なのか、描写不足を感じるシーンが散見されたことである。一番気になったシーンとしては上記要約における6番の永瀬の魔法行使シーンである。

 

 このシーンにおいては勾坂は魔法で消された記憶が戻っていた(正確には部分的にの可能性もあるが)。勾坂は永瀬によって救命されたことは少なくとも認識していた。さてこの時点で読者には上記要約の1-4は公開されていなかった。あくまで昔永瀬が大きな失敗をして勾坂を傷つけた、という抽象的な情報しか公開されていなかった。読者が把握していない情報を元に、自らの存在を消す魔法を行使した永瀬の独白を聞いたところで、残念ながら読者はその内容を腑に落とすことができないであろう。個人的な感想としては「置いてけぼり」になったと感じた。

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先に事故の詳細を語ろうね

 勾坂視点では語りえない要素も、永瀬視点を使用すれば読者に提示できたはずであった。上記要約6よりも前のタイミングで屋上へ向かう永瀬を勾坂が認識したというイベントがあった。永瀬は当然魔法の隠避の観点から表情を強張らせたのであろう。

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この無表情レマルプ目、時々出てきましたね

 だとしたら当日の夜永瀬の自室での語りや「嫌な夢」として1-4の要素を読者に提示できたと考える。

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ならそれを描写しちゃえばよかったのにね

 

 さてもう一つ気になった点を挙げておこう。上記要約6において永瀬が行使した魔法の規模についてである。この魔法においては永瀬の記憶を勾坂の記憶から消したのではなく、学園において存在していた永瀬という記憶を消した、換言すれば魔法の効果対象は学園全校に渡るものであった。

 

 さて今回この魔法を行使した永瀬は、作中に於いて魔法の練習をしていた。その魔法は生命力を活性化させる系統の魔法(蘇ノ花)であったようだが、作中では完遂出来ていなかった。

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不発

 さて全校に渡る「存在の記憶を消滅させる」魔法と、「生命力を活性化させる」魔法と、どちらが簡便なのであろうか。前者に至っては勾坂に魔法使いであることが発覚しある程度気が動転していると推定される状況において発動した魔法であった。後者の魔法は失敗し、前者の魔法は無事発動する、というのは些か違和感が強いと思われる。前者の存在消滅魔法の際には作中では依代のようなものとして枯れかけのコスモスを使用していたが、はたしてそれで魔法としての難易度が下がるのかは疑問である。

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コスモスの花びらが8枚であることを利用した描写は素晴らしかったです

 


 さて、本作のテーマソングは会心の出来であった。
歌詞(2)はリンク先を参照のこと

https://www.campus.gr.jp/mahoshi/library/?d=s14

 

"「どうか、幸せでいてね」 ずっとずっとあの日から想っている 来ない明日を"(a)
"君に見えないように 背中隠した花束 ねぇ、ホントは今夜だけは そばに居たい"
"ゆらりゆらり沈んでく 差し伸べた手を解いて 私は闇に飲まれてく "―君を想い、花をむしる―""
""消えてしまえばいい""跡形もなく全部""思い出さないで欲しい"と願ったのに"
など少女の恋心と諦観の念とを歌い上げた印象的な歌詞に加えて、Ceui氏の緩急の付け方の巧みさが光る名曲である(私見)。
 私事であるが本作品をプレイしようと思ったキッカケがこのテーマソングに惹かれてのことであった。
 プレイしてから改めてこの曲を拝聴すると、永瀬の心情を情緒豊かに語りあげた素晴らしい歌詞であった。

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歌詞抜粋、という感じですね

 個人的に評価しておきたい言い回しとして、(a)の一節がある。この"あの日から『想って』いる"というフレーズ選択が素晴らしいと感じた。「思っている」ではなく「想っている」である。

 

 とあるサイト(3)には「思う」と「想う」の使い分けについて以下の記載がある。
"
「思う」の意味は「頭の中で考えること」です。
「思」という漢字は、分解すると「田」と「心」という二つの漢字からできており、「田」は幼児の脳のを表し、「心」は心臓を表しているといわれています。
よって、「思」は「頭で考えたり心で考えること」を意味しているということになります。
「思う」は、対象について『これこれだ』『こうなるだろう』と心を働かせること・あれこれと心に掛けてわずらい、または嘆くことを表します。

「想う」の意味は「心の中でイメージすること」です。
「想」という漢字は、「相」と「心」という二つの漢字からできています。
この「相」と「心」は「木を対象として見ること」を表しているとされていて、心でその姿を見るということを表現しています。
「心の中でイメージするという」というような意味合いをもつということです。
例えば、「あなたを想う」という使い方をすると、「あなたの容姿などを具体的にイメージしています」いう意味合いになり、頭で考える「思う」よりも強い感情を表していることになります。
"(強調は筆者による)


 また懸想という単語は大辞林によれば(4)"異性に思いをかけること。恋い慕うこと。"でありまさに上述の「想う」のニュアンスが強く出た単語である。

 

 さて
"「どうか、幸せでいてね」 ずっとずっとあの日から想っている 来ない明日を"
というフレーズは、魔力を暴走させて勾坂を傷つけた永瀬が、勾坂を助ける代償として勾坂との永遠の別れを覚悟して抱いた感情であった(上述の要約4に該当)。

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涙ながらのフレーズですよ

 勾坂の幸せを具体的に強く希求しつつ、自らの失恋という要素を含ませるために恋愛関係のニュアンスがついている「想う」という単語を選んだのであろう。この一単語に込められた強い少女の感情を想像すると、筆者の胸が暖かくなるものがあった。

 


 全体としてはロープライスの宿命である描写不足の煽りを受けながらも、素晴らしい出来のテーマソングも相まって良作であったと感じさせられた一作であった。
 First Love Syndrome(前作のテーマソング)と一緒にCeui氏がアルバムを出したら即購入したいと感じた。

 


以下参考文献リスト
(1)Planador 氏 Twitter


(2)Campus 公式サイト 「君に花」

 

https://www.campus.gr.jp/mahoshi/library/?d=s14

 

(3)「思う」と「想う」の意味の違い 英語部

eigobu.jp

(4)コトバンク 懸想

https://kotobank.jp/word/%E6%87%B8%E6%83%B3-490006