湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

きまぐれテンプテーション 総評感想

きまぐれテンプテーション 総評感想
執筆者:やーみ @suxamethonium28
※ネタバレ注意

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タイトル画面

 

まとめ

・ミドルプライスの良さを活かしきった作品だと思います。 

 

 

 Silky's Plus WASABI というブランドから発売された一作であり、本作品の初動発売価格は税抜3800円といわゆるロープライス~ミドルプライスに該当する作品(1)である。本作は低価格帯の宿命である「シナリオの短さ」とそれに伴う「攻略ヒロインの少なさ」とを巧く利用した良質な作品であったと私は考えている。その理由を順に述べていく。

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イギリスの悪魔

 

 まずシナリオの短さについて述べる。ロープライス~ミドルプライス(以下簡便化のために低価格帯と表記する)の作品は一般にフルプライスと呼ばれる税抜8800円以上の作品より、シナリオが短く攻略可能キャラクターの数が少ない傾向にある(2)(3)。その規模としてはひょうろくだま氏は、いわゆるフルプライスで"最低でも10-15時間くらいのボリューム"(2)としている。

 

 筆者は本作をコンプリートする際にE-moteによる速度低下を伴った上で、およそ6時間弱であった。いわゆるTRUE ENDだけを回収するのであれば4時間程度を要した程度であった。

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E-moteでひょこひょこ動くのが良い

 

 ちなみにエロゲー批評空間においてはユーザーのプレイ時間中央値は10時間(4)であるようで、シナリオ分岐や選択肢の豊富さがプレイ時間の増加に影響していた要素もあるかもしれない。

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探索パートで選択肢が膨れ上がったが、これは窓を調べる様子

 
 さて上述の通り、本作は決していわゆるフルプライスのように長い作品ではない。故にシナリオ内部において長大なギミックを作り上げている余裕はなかった。この作品にあったシナリオ上の飛び道具はただ一つで「ヒロインがラスボス」のみである。

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ちょっと前に一枚絵もあった

 

 逆に考えてみよう。低価格帯作品で例えば虚構世界(5)や遡及的過去形成(6)の話が出来るかということである。正直かなり難しいと思われる。つまり低価格帯作品においてはこじんまりとしたギミックは正当化される、むしろこじんまりとしたギミックだけでどのようにシナリオを牽引していくかが重要なのではないかと推定される。

 

 本作ではシナリオ牽引役としてテンポが良かったと感じた。上述の通りギミックがこじんまりとする以上、シナリオの雰囲気も弩級のシリアス一辺倒ではいけない。主人公とヒロインは真面目な話をしていたかと思えば、その真面目な話が概ね終わったところで数セリフの漫才(=ボケとツッコミの会話)をする。

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 こうなると文章にテンポが生まれると思われた。起承転結で言えば転の辺りでは真面目/シリアス→軽く空気を弛緩させる→また真面目→また弛緩と繰り返していくことになった。この空気を弛緩させる会話はヒロインや主人公に限った話ではなかった。

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この落差である

 シリアスパートでは読者はどうしても集中してシナリオを読むことを強制されがちであり、それを持続するのは困難であろうと推測される。集中を解く瞬間として、これらの空気を弛緩させる会話は重要であると感じた。

 

 またこれは意見が別れている(7)ようだが、スクリーンショットだけ上述しているが、いわゆる捜査パートが没入感を作り出すことに寄与していたと筆者は考えている。シナリオを進める上で全く関係のないものを調べる際にヒロインと為される会話が短文ながら小気味よいものだと感じたのだ。

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このような会話が沢山ある

 上述の通り低価格帯ではシナリオの量には制限がかかる。本作にはOP映像を見る限り5人の少女-青年女性が登場する。順にアンネリーゼ・サリイ・ロゥジィ・クーリィ・ハーヴィー(一応OPの表記に準じているが、サリィ・ハーヴィでは……)であるが、このうち攻略ヒロインはアンネリーゼのみである。

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中央の紫水晶はなんだろうなあ(すっとぼけ)

 言い方を変える。残りの4人の過去描写・心情描写は多くなかった。主人公たちが観測したものに留まっていた。攻略ヒロインであった場合、商業上そのヒロインを「攻略したい」とプレイヤーに思わせる必要がある。「攻略したい」ヒロイン像についてインターネット上でフリーで見られる記載は多くないが、アダルトビデオのインタビューパートの存在意義を想定することがわかりやすいと思われる。

 

 このブログ(8)

https://note.com/elcapitan/n/ndb832e4f6f97?magazine_key=md28984cd733a

 が示唆に富んでいる。まとめると「女優のインタビューで視聴者は興奮する必要があるが素人にそれは難しいので、AV玄人が書くレビューで女優の人となりを事前に把握しよう」というものである。言い方を変えよう。AVのインタビューパートで興奮するためには女優の人となりが必要なのだ。エロゲーヒロインも最終的にプレイヤーを興奮させる必要があるという意味でAV女優のそれを外挿していいだろう(エロだけに)。

 すなわちエロゲーヒロインにはプレイヤーとのインタビュー、つまり人となりを知る場が必要なのであろう。そのインタビューが言ってしまえば共通ルートなのではないだろうか。なお類似の内容は筆者が「キミトユメミシ」というエロゲーの感想(9)で記載している。

 

 残念ながらエロゲーにおいては実在のAV女優の作品とは異なり、過去に同じキャラはファンディスクを除いて一人も居ない。すなわち前述の玄人のレビューによるやっつけの性格把握は出来ない。ゆえにエロゲーヒロインにおいてはある程度の時間を割いた「共通ルート」が必要になってしまうのだろう。とすると低価格帯の文章容量の少なさがここで仇となる。複数ヒロインの描写をするには足りなくなってしまうのだ。なおこれも同様の指摘を筆者はすでに「空と海が触れ合う彼方」というノベルゲーの感想(10)で記載している。

 

 故に本作においてヒロインをアンネリーゼただ一人に据えたのは英断であると考えられた。

 

 本作は小気味いい会話でシリアスを適度に弛緩させ、低価格帯の文量制限の中で単独ヒロインを据えたスタイルが、低価格帯の正に正解であったと感じられた。全体として大変満足な作品であった。

 


以下雑感

・OP詐欺も良いところですね。褒めてますけど。(筆者はOP詐欺ゲーという噂があったので本作をプレイしたので)

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この紫色のクリスタル、覚醒剤ですよ。

 

・音割れを使って金切り声を表現するのは大変耳に優しい仕様だった。

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この直後が如実だった

 ・「アンネを殺す」の選択肢だけが表示される仕様は、上述の捜査パートといいプレイヤーを参加者にしていて良いと思う。

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・END6「        」に関して、付着している血液は多分師匠のものだろう。霊体でも刃傷から血液のようなモノが流出していたし(END4「後悔」だったと思われる)。アンネを殺しに来るのは師匠で、アンネを守る主人公がアンネや自分を殺すわけがないため。

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・中の人イジりは良くないぞ!

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死んでも死にきれませんね

・ぱせり氏が指摘(11)しているが、性行為を行う場所及び性行為実施の有無でシナリオが分岐し、それが部屋の瘴気への包まれ方でわかるというのが、いかにもエロゲーで良い。なおこの分岐は作中中盤である。一昔前のエロゲーってこうだったんだよ! END回収のためにSkipを走らせた思い出よ。


・これも上記(11)に記載があるが、一人称に揺れがある。アンネリーゼの正体から人格の露出ではとぱせり氏は考察しているが、この手の一人称・二人称に意味を持たせる手法は個人的に大好物である。

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・ホラー風というかミステリー風というかにも関わらず、いわゆるびっくり箱系の演出がなかったことが大変に好印象であった。

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作中一番驚いたのでこれ


Twitter映えするスクリーンショットが多いですね!

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スクリーンショットの宝庫

 

 

以下参考文献


(1)げっちゅ屋 きまぐれテンプテーション

www.getchu.com

 

(2)カクヨム とあるエロゲシナリオライターの日常 19:大ボリュームのシナリオ

kakuyomu.jp

 

(3)シナリオライター空下元 個人サイト 企画の立て方4

soranositah.com

 

(4)エロゲー批評空間 きまぐれテンプテーション

erogamescape.dyndns.org

 

(5)muzin (余計なネタバレのためページタイトルは筆者により伏せた)

http://www.muzin.org/wp/game/%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%90%E3%82%B9ex%E8%80%83%E5%AF%9F%EF%BC%92%E3%80%80%E8%99%9A%E6%A7%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6_96/

 

(6)nix in desertis (余計なネタバレのためページタイトルは筆者により伏せた)

http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/51984416.html

 

(7)エロゲー批評空間 きまぐれテンプテーション ウメサンドさんの感想
(捜査パートに否定的な感想の一例)

erogamescape.dyndns.org

 

(8)note elcapitan AVのインタビューについて考える アイポケ編1

note.com

 

(9)Erogamescape キミトユメミシ Suxamethonium28さんの感想

erogamescape.dyndns.org

 

(10)湯豆腐のようななにか 空と海が触れ合う彼方 総評感想

suxamethonium28.hatenadiary.jp

 

(11)農園 はてなブログ きまぐれテンプテーション 感想・考察

parsel-y.hatenablog.com