空と海が、ふれあう彼方。 総評感想
空と海が、ふれあう彼方。 総評感想 ※ネタバレ注意
執筆者:やーみ @suxmethonium28
さてどう書いたものか。面白いは面白い。雰囲気もいい。夏の小笠原に行ったことはないが、海水浴場のパラソルのしたで、優雅に寝転びながらハイビスカスの美味しいかもわからないようなドリンクを飲みたい、そう私が思わさせられたのは事実だ。背景の綺麗さ、音やエフェクトによる臨場感、そして小気味いい登場人物たちの掛け合い。これらが合わさって、作品内への没入感を作ることに成功しているのであろう。
この辺りは流石のPULLTOPだった。ココロ@ファンクション! といい、演出周りを上手いこと整えて快適に没入させ、心地良い読後感をもたらしてくれるように仕向けられている。本作でも「概ね」それは達成されており、その意味でこの作品は良作である。
私がこう煮え切らない文章を書いている理由は、「読後感としての『あっけなさ』」がどうしても私の胸の中に残ってしまったからである。要素としては足りているのだ。ただその要素以外がかなり削ぎ落とされているように感じたのだ。以下詳細に述べていく。
さてこの作品においてヒロインは二人いるが、それぞれのルートにおいていわゆる「盛り上がりポイント」は何であったかを考える。大抵の場合物語のクライマックスが一番盛り上がることを考えると、エミリィルートにおいては海の中で抱き合うシーン(もしくは幽霊船の中で指輪を見つけたシーンか)、ちさルートにおいては幽霊船からの脱出シーンがそうなのであろう。
これらの「盛り上がりポイント」を本当に盛り上げるために必要な要素に関して、エミリィルートにおいては「小笠原への思い」「両親のすれ違い」「ヒロインの親への親愛」が、ちさルートにおいては「ヒロインの孤独」への描写が必要であろう。
実際にこれらは描かれているのだ。エミリィルートにおいては共通で小笠原文化を楽しむエミリィが描かれているし、娘を追いかけて小笠原に来るエミリィの父の描写もある。ちさルートにおいては「ダイビング事故」も「イルカのQ太郎との触れ合い」も描いている。
しかし僕にはいわゆる「あそび」が少ないように見られた。「盛り上がりポイント」とは関係のないところでのキャラクターの掘り下げが少なく感じたとでも言えばいいのだろうか。都会でのエミリィの様子は? ちさとちなみの関係性が樹立された経緯は? 漁太(アニキポジションのキャラ)と主人公とちさとの関係性の経緯は? 主人公の料理人へのキャリアパスにおける家族との意見の相違は?
シナリオ自体の長さ制限が所以かは知らないが、これらの人物の周辺要素を積極的に描いていないことで、登場人物のキャラが少々薄まってしまっているのではないか、私はそう考えてしまう。
思うにこれらはロープライスの性質上致し方ないものであって、それをあげつらうことはあまり適切とは言い難いのだろう。気になってしまった備忘録として、記載しておくにとどめておくことにする。
この作品をプレイして、小笠原の海でで思いっきり泳ぎたい・漬けのお寿司を食べたい、確かにそう思わさせられた。その意味で良作である。長さは短いが、その短いなかでも没入できるというのはいい作品の証である。生まれた南国リゾート欲を解消するために私はAmazonで高級かき氷機をポチったことを読者諸兄に報告して、感想の筆を置くことにする。
参考文献:なし