湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

向日葵の教会と長い夏休み 総評感想

向日葵の教会と長い夏休み 総評感想
執筆者:やーみ@suxamethonium28 ※ネタバレ注意

 

 

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スクショ下手芸人(OP動画のスクショは難しいね)

 さてどう書いたものか。この物語は「過去(8年前)」「現在」「10年後」と複数の時間軸で描かれる物語であり、18年の時間差を用いることで描かれた登場人物の濃厚な描写は読者の感情を突き動かすことに十分な役割を果たしたであろう。個人的に感極まった詠ルートに関して述べていこうと思う。

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明日葉・ファイティングボンバー・陽介

 

 KAZAMI氏作成のMADであるが、最高のMADであり、冒頭に紹介させていただく(詠ルートのネタバレ盛りだくさんなので注意)。

www.nicovideo.jp

 

 

 

 

 以下本稿では特に指定のない限り、詠を「夭折した夏咲詠もしくはその残滓」、「詠」を「黒猫が詠の姿形を取った人」と定義する。

 

 詠・「詠」ルートにおいては死者に操を立てるヨミの葛藤をメインとして描いていたと考える。Plotとしてのこの物語は以下のようになる((1)に日本神話と絡めた詳記がある)。

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1:陽介(主人公)は村と馴染めずに元々孤独であった。
2:孤独な陽介は黒猫と詠と出会い、詠と黒猫と陽介とは3人で遊んでいた。
3:詠は何らかの慢性進行する致死的疾患に罹患しており、陽介に「またね」と告げ、別れる

4:「またね」を信じ待ち続ける陽介をかわいそうに思った黒猫は詠の姿形を取って「詠」となる。
5:詠は「詠」に自らの代役となって陽介と日々の生活を送ることを願い、詠と「詠」との真夜中の会合が始まる
6:陽介が朧白を離れる。同日詠が夭折する。
7:「詠」は役目を終え、マガイの黒猫に戻る。
8:8年ぶりに陽介が朧白に帰り、黒猫は再び「詠」を演じはじめる。
9:ネコマ(マガイの上位存在)の力は様々な存在を幸せにするために使われるべきものだが、詠の残滓が現世に出現することで陽介に災いを成すことを「詠」は危惧する。
10:希望が丘の地で話し合い

 

 さて僕が思うに、この物語は「詠」が自らの存在意義に関してもだえ苦しむものである。

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最高のシーン

 黒猫は自分自身のことを出来損ないの「詠」(=中途半端なマガイもの)として認識しており、出来損ないである自らのせいで詠自信から詠としての居場所を奪ってしまい、自らが誤った力の使い方を行っていることで、陽介を不幸にしていると考えていた。
 前者に関しては詠自身からの願いであったこと、ネコマのコメント(8年ぶりに力が戻ったのはそれが正しいことだからだ)によって受け入れられたものの、後者に関しては詠・「詠」ルートの間中苦悶することになった。

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詠ちゃんの達観


 結局の所陽介は詠・黒猫・自分自身の3人での逢瀬を望んでいたと述べる。詠はよーくんと「詠」との途中で終わってしまったおとぎ話の続きを望み、黒猫はよーくんが再び笑顔になれることを望み、陽介は3人でまた出会えることを望んだ。黒猫が力を持ったのは詠・黒猫・自分自身の三者三様な願いの最大公約数が「詠」を生み出すことであったと説得する。つまり「詠」の存在は3人皆が望んだことであり、その望みの結晶である「詠」は存在を肯定されるべきであると述べる。

 

 興味深いことに陽介も詠も「詠」の存在意義に関して自説を述べていない。むしろ「幸福者であることに理由なんかいるか」とネコマに啖呵を切っている。「詠」自身は自らの存在意義を自問自答し、意義をなせていないのではと自罰の念にかられているのにである。しいて記載されているものとしては「(自らを何も出来ない野良猫と蔑む「詠」に対して)そして、俺にとっては最初の友達で、今ではかけがえのない人だ」と述べているくらいである。

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陽介くんかっこいい

 存在意義というものは自ら定義するものではなく、他人によって定義されるものでもなく、あくまで自らと他人との関係性の中で勝手に見つかっていくものだということだろうか。

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雛桜ルートでもそんな話がありましたね

 

 希望が丘におけるシーンは二人称の使いかたが完璧で、「詠」の人格に関しても示唆的なメッセージが二人称から出されているように感じた。それを上手く言語化出来ないことは私の力量不足を痛感させられるものであって、どなたかが上手くこの「詠」の人格肯定を言語化してくださることを願いたい((2)・代理体験と自己の確立にやや詳記あり)。

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弊Blogも下手に詠と「詠」を書き分けないほうが作品の主張に一致できた気がしないでもない

 作品としては共通ルートは軽妙な掛け合いでテンポよく読み進める事ができた。BGMは特に秀逸で、萌ゲーアワード2013のBGM賞を獲得している(3)。雛桜も詠も別の意味で可愛らしいキャラクターであり、神父は狂言回しと「師」として完璧な大人であった。長い夏休みシナリオにおいては成長した各キャラが良い味わいを出していて、攻略ヒロインでは無かったが、月子は大変魅力的なキャラクターであった(4)。

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 成長した雛桜の快活な娘像はとても微笑ましかったと思う。

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エロゲだから最終的にこの娘と……となると結構……

 総じてプレイして良かった。自称雰囲気ゲーとのことであるが(5)、自負の通り素晴らしい雰囲気であったと思う。

 

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oh......




(1)

向日葵の教会と長い夏休み 夏咲詠ルートの感想・レビュー - 益体無い話または文

d.hatena.ne.jp

 

(2)

『向日葵の教会と長い夏休み』 夏咲詠ルートを読む(感想・レビュー) - ワザリング・ハイツ -annex-

sengchang.hatenadiary.com

(3)

萌えゲーアワード2013 受賞タイトル発表!!

http://moe-gameaward.com/prize/2013/bgm.html

(4)

cyokin10wさんの「向日葵の教会と長い夏休み」の感想 ErogameScape -エロゲー批評空間-

https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=17190&uid=cyokin10w

(5)向日葵の教会と長い夏休み - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%91%E6%97%A5%E8%91%B5%E3%81%AE%E6%95%99%E4%BC%9A%E3%81%A8%E9%95%B7%E3%81%84%E5%A4%8F%E4%BC%91%E3%81%BF
パソコンパラダイスに当たり得ないので、孫引きです(研究不正)