湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

青い空のカミュ 総評感想

青い空のカミュ 総評感想

※ネタバレ注意(一枚絵バレあり)
執筆者:やーみ @suxamethonium28

 

 さてKaiから発売されたゲームである。そのCGの美しさはいたるところにおいて称賛されていた。可愛らしい絵柄で展開される陵辱劇は貴重な品であり、その意味で一部エロゲーマーには確実に突き刺さる内容であったと言えよう。

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 この作品においてのテーマは「『幸福』と『幸運』の差について」であろうか。

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幸福論


 換言しつつ直球でネタバレをしてしまえば、この作品のユニークなところとして「誰も幸せにならなかった」ことを挙げておきたい。

 

 エンディング時点での登場人物たちの状況を一旦まとめておく。

村人たち(異世界):欲望のまま動く存在として、圧縮される世界から逃走するなどした。
村人たち(現実世界):ダム決壊により、生死不明
聡(兄):異形に巻き込まれた際に精神が分裂
サトくん:精神の片割れであるヒヒと相打ちで死亡
ヒヒ:精神の片割れであるサトくんと相打ちで死亡

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オスです

蛍:大切なこと(燐の存在)を自覚し現実世界に帰還したが、燐は現実世界には居ない

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ひとりぼっちは、寂しいもんな……

燐:生死不明。家族愛(両親の離婚)・異性愛/兄弟愛(聡)を失い、現実世界に戻ることができない程度に自ら傷だらけになった。蛍と離別。

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思い出の中に居たから……

 美しいくらいに誰も「幸福」になっていない。

 

 

 さてこの作品においては「幸運」は歪みをもたらす、ということが述べられていた。例えば作中において村が林業から別産業誘致に成功させたということは、他の村は産業誘致に失敗したということである、との記載があった(スクショ忘れ)。

 

 「そこに存在するだけで幸運をもたらす現象」を「座敷童」と命名し、生殖によって座敷童を維持していくという手法を取った村は、最終的にその歪みが噴出し村は洪水に飲まれることになった。

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都市計画が捗りそうですね()

 結局の所村の彼らは「幸運」を掴んでいたが「幸福」にはなれなかったのであった。だからこそ異世界においては顔を失い、顔の切れ間からは欲望のみを覗かせることになったのだろう。

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 さて今までの記載の通り「幸運」はあくまで事象である。一方で「幸福」は極めて個人的な感情である。「幸福」はそれを自覚したときにはもう「幸福」のピークは過ぎているのだ、との記載もあった。

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幸福と幸運の違い

 本作品のラストにおいて飛んできた紙飛行機は、青いドアの家の世界において風車の上から二人で投げた紙飛行機であろう。その紙飛行機には燐の「気持ちの重いところ」が乗っかっている。

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この紙飛行機を投げるシーンの美しさと言ったら(感嘆)

 燐の「気持ちの重いところ」は何であろうか。この紙飛行機のエピソードの直前には、聡が燐への親愛と性愛との合間に揺れ動き「綺麗なもの」をそのままにしておけない苦悩が明かされた。聡は自ら苦悶し分裂し、結果こぼれたミルクと化した。

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 燐は燐で聡に夜這いを仕掛けお互いの傷を増やした。

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この顔もいいよね

 両親の離婚というエピソードも重なって、彼女自身の気持ちはなかなか筆舌に尽くしがたしかろう。

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つらい

 この「気持ちの重さ」は文字通り彼女を傷つけるトゲであり、紙飛行機を飛ばしたエピソードは蛍と燐とで一緒に彼女のいわゆるトラウマ(心理学用語ではない)をリリースする役割を持っていたと推定できる。

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この立ち絵と背景の組み合わせが素晴らしい

 さてこのトラウマが乗った飛行機が現実世界の蛍の元に辿り着いた。燐にとって蛍は「傷一つない」、「モノクロの世界で色彩に溢れた」人物であった。

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 意地悪な見方になる自覚はあるが、燐は自らの傷が蛍に悪影響を及ぼさないようにという願いを持っていた(ただしMTB氏の感想(1)によれば「本当の願い=切符獲得条件」は聡と結ばれることでは、という指摘があり、こちらのほうが確かに蓋然性が高そうだ)という状況にもかかわらず、その傷それ自体は蛍のもとに辿り着いたのだ。

 この紙飛行機は確かに蛍にとっては燐とともに過ごした3日間の過酷な異世界の旅の確かな記憶ではあるが、それは「唯一得た大切な人」との離別を思い起こさせる品である。

 蛍はこの紙飛行機を見るたびに、「幸福だった3日間」を思い出し、薄淋とした感情に支配されるのであろう。実に性格が悪い飛び道具である(褒め言葉)。

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諦観した燐

 全体的な感想としては、短いながら綺麗に纏まっていた作品であり、着地点もUniqueゆえ読んでいて面白かった。ただし文学的素養にあふれるないし、語をこねくり回すのに慣れている読者でないと読み下すのに苦労すると思われ、大手を振って勧めにくい。この辺をすべて説明すればフルプライスに相応しい長さにもなるのであろうが、冗長となって却ってマイナスだろう。70点後半。エロの偉大さを加えれば80点前半。

 


以下雑感

・サトくんとヒヒの立ち絵に関して、両方共左目のみ描写されていたが、片方左目、片方右目のみ描写のほうが分裂した精神を表すにはそれっぽくないか。

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・ロリロリしい絵柄は可愛らしい。こういう絵柄でのガチ陵辱はあまり多くない(The God of Death(スタジオメビウス)とか、鎖-クサリ-(Leaf)とかまで遡らないといけないのでは?)ので貴重。

 

・アイスホッケー部の設定は戦闘描写に説得力をもたせていた。少女の華奢な贅力では礫を飛ばす、というのは有り「得そう」。次の部活はラクロス部ですかね。

 

・CG枚数は充分量あり、シナリオの分量はかなり少ない。結果一枚絵による演出が非常に重厚になったのは狙ったのか嬉しい誤算なのか。

 

・「思い」と「想い」の使い分けは筆者もよく気をつけているので、少し親近感が湧く。

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・座敷童ちゃんが男の子を孕んでしまったらどうなっちゃうんだろう。

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・「座敷童って幸福そのものみたいな存在を捕まえて、それに執着し続けて……歪みが溜まってこんな状況になったって。」これ「幸福」ではなくて「幸運」では? 

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根幹に関わる誤植のように思えるが……


(1)田舎暮らしの俺が見る目無し男な件 青い空のカミュ 感想 

http://blog.livedoor.jp/msmstkn/archives/16704498.html