湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

CisLugI 総評感想

CisLugI 総評感想 ※ネタバレ注意 ※駄文注意

執筆者:やーみ @suxamethonium28

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 さて2018年8月辺りに少々話題になった作品である。同人ゲーにもかかわらず地上波でCMを放送したり、といった要素が物珍しかったということはあるだろう(2)。

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ドキドキしちゃう

 予め述べておくが本作にはグランドエンドなどという気の利いたものは存在しない。悪く言えば未完成商法、良く言えば続きが気になると述べられるもので、その意味でStoryに期待すると甚だ肩透かしをくらう。つまり本作はStoryを楽しむものではなく、4つのオムニバス形式のゲームに何を見出すかプレイヤー自身の力量が問われる作品と言えるのかもしれない。というわけで本稿においては本作を読み筆者が色々と考えたことを記載していくこととする。

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これ、2章のラストシーン

 

 本作においては「これは『命』を問う物語」とオープニングムービーで自ら述べている(3)通り、「これは『命』を問う物語」なのであろう。さて「命」と一口に述べても様々な内容を指すことが出来る。デジタル大辞泉では以下の用法が挙げられている。

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Youtube 公式OPより かっこいいムービーですよ

1 生物が生きていくためのもとの力となるもの。生命。「命にかかわる病気」「命をとりとめる」「命ある限り」
2 生きている間。生涯。一生。「短い命を終える」
3 寿命。「命が延びる」
4 最も大切なもの。唯一のよりどころ。そのものの真髄。「命と頼む」「商売は信用が命だ」
5 運命。天命。
「年ごとにあひ見ることは―にて老いの数そふ秋の夜の月」〈風雅・雑上〉
6 近世、遊里などで、相愛の男女が互いの二の腕に「命」の一字、または「誰々命」と入れ墨をすること。また、その文字。

 

 これら多数の意味が「命」にはあるわけで、本作はオムニバス形式を用いて色々な「命」を描いてみたのだろう。まず本作全体の共通前提を述べた上で、順に作中でどのような「命」が描かれていたのかを述べていく。

 

公式サイト(1)の世界設定には以下の記載がある。
 「死にたい」と口にするだけで死ねる世界
 国際協和連合の下、『尊厳維持装置』という針状の爆弾が国民全員の脳内に埋め込まれ十数年が経った
 「死にたい」と口にするだけで起爆するその爆弾により人々は苦しまず、いつでも気軽に自殺を行えるようになった
 自爆によって高齢化社会、雇用問題、人口問題、イジメ、食料問題、医療問題等の様々な社会問題は解決され、世界は更なるステップへとアップデートされた
 もはや死は終末の恐怖ではなく、身近な安らぎとして人間の持ちうる最大の権利であると人々は確信していた

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銃社会ってちょっとこんな感じなんですかね?(無知)

 つまり究極の自己決定権としての自殺が公的に認められ、極めて容易な手段でその権利を行使することが出来る様になった。その権利行使の方法として『尊厳維持装置』があることを認識していればよい。

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臓器も有効活用されます

 

 第1章「A.罪過の兎は手を伸ばす」においては、この「命」を奪うギミックである「尊厳維持装置」を真正面から捉えその是非を問うた物語であった。作中「悪役(便宜上こう記載する)」として桐谷が「尊厳維持装置」を肯定的に捉え、主人公の相棒であるライカが「尊厳維持装置」否定派として据えられる。それぞれの論には一定の合理性があって、結局の所自己決定権は自らの生命にまで及ぶのか、というディベートを延々と行った内容であった。

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 キリスト教圏では自らの身体は神の所有物であり、自殺は神の所有物を勝手に処分することと同じなので重罪である、という価値観が一部にある(5)。一方で個人の領分に収まるのであれば自らに不利になる行為を行う権利がある(ex.輸血拒否など)という「愚行権」という考え方もあり(6)、これらは倫理的にControversialな話題と言えよう。こういった倫理的に込み入った話に関して筆者は門外漢であるため言及は避ける。というか可燃性が高すぎる話題なので下手に突っ込むと炭すら残らない燃え方をする。

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ドキドキしちゃう

 

 本作において最終的な着地点は「『愚行権』は否定されるべきではないが、それで死んじゃうと『僕が』悲しいから辞めてくれ」というもので、なかなか独善にすぎる(褒め言葉)。「テロリスト」にこれを語らせるというのはPlotの勝利であり、他の誰が語っても彼以上の説得力を持ち得なかったであろうと確信する。

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作中指折りの盛り上がりシーン

 

 またこの着地点は巧みで、実際に「自殺は自殺の呼び水になる」ということは旧来から知られている。WHOは自殺予防に関していくつかのガイドラインを公開していて、その中にメディア向けのものが存在する(7)。

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これが日本で守られているかは議論してはいけない

 

 敢えてラフにこれを要約すれば、自殺を身近なものとしない、というものであって本作の前提条件であるカジュアルな自殺ギミックである「尊厳維持装置」と見事に逆の内容が推奨されている。本作の着地点の説得力を増すために意図的にやったのであろう。上手いと思う。

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 と色々と「ムズカシイ」ことを述べているが、純粋にこの章は読んでいて楽しかった。パワードスーツというメカメカしいアイテムが全面に押し出され、秘密結社の同僚とときに殴り合いときに友情を深めときに裏切られ挫折し、それでも信じる仲間と前に進んでいくというStoryは、心は小学校男子の筆者にとっては楽しいに決まっている。心が小学生男子の読者諸君(男女問わない)は読み物としても楽しめるのではないだろうか。

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ドキドキしちゃう

 

 第2章「B.道化の電波時計は時を刻むのか」においては「命」の内容として「自我」を挙げたと考える。叙述の仕方がやや特殊で、なかなか文意を汲み取るのに苦労させられた章であった。

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筋が通った変態である

 主人公から見て許嫁は文字通り完璧な存在であった。主人公にとって許嫁の述べることは何であれ正しいことと考えてしまう程度には崇拝していた。一方許嫁には妹がいて、その妹は主人公に好意を抱いていた。許嫁自身は主人公にも妹にも行為を抱いていた。一応三角関係のようなものだったと考えて差し支えなかろう。

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 さて許嫁の妹は「この身のままでは主人公に思いを伝えることは出来ない」と「尊厳維持装置」を用いて自殺する。そのことを知った許嫁は妹の願いをかなえるため、許嫁と妹とを入れ替え、許嫁が死んだこととし自分は彼女の妹として生きていくことにした。しかしながら主人公は死んだ事になっている許嫁にいつまでも懸想を抱き続けた。許嫁は主人公に自らを諦めさせようと画策したが不発に終わった。

 

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一瞬リトルバスターズ! を思い出したのは僕だけだろう

 

 全てのネタバラシがなされた屋上での話し合いで、主人公は「許嫁の理想の人間」として生きていたことを吐露する。晴れて主人公も許嫁も誰かに期待された生き方を自らの本懐として生きていたことを自覚するのであった。

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超展開

 この物語の着地点は「誰かの理想のために生きる」ことも立派な自我である、と結論付けている。概ね納得が行く着地点だろうとは思う。申し訳ないが前述の通りこの章は文意が取りにくく、これ以上のAssessmentは筆者には荷が重い。
 

 

 第3章「C.不良の少女は愛を知らない」においては「正義」とは誰がどのように担保するものなのかがテーマとなったと考える。
 主人公のマフラー少女はテロリスト「白兎」に列車事故現場から救出された経緯があり、ヒーローへのあこがれがあった。

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ドキドキしちゃう

 一方で親と不仲で自宅に居たくないがために、夜な夜な外出をしていた。その際に街の路地裏で悪漢に襲われる同級生を救助した。そこからマフラー少女の夜回り警備が始まった。

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 首都防衛を担う特殊部隊にマフラー少女は勧誘されそこで「大勢の人の正義」を守るために「社会犯」の捕獲ミッションなどをこなしていく。その過程で救出した同級生で友人のさよがマフラー少女の模倣犯として殺人事件を起こしていたことが判明する。最終的に主人公は正義の味方でいることを諦め、さよの贖罪を応援する友人の立場を取ることにした。

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かっこいいセリフ

 

 正義とは何か。大多数の大衆が重視するものを維持する行為を指すのか、はたまた個人個人によって「己の中の正義」が存在しうるのか。昔から言われ尽くした命題ではある。筆者個人としては「己が正しいと信じたことを守る行為」を「正義の行い」と考えている。特にその思想の根拠はない。作中においてはさよの思想に近くある。

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彼女の「正義」

 

 一方で彼女の思想とは決定的に異なる部分があり、それは人間の数だけ「正義」がある以上その「正義」は時に衝突しうるというものだ、ということだ。これはつまり「正義をなす」ことが社会的に常に容認されるべきとは限らないことを意味する。

 

 さてこの「正義」の議論を「尊厳維持装置」に適応するとなかなか面白いことになる。「尊厳維持装置」は多数派の賛成をもって全国民に強制的に導入され、維持されていくことになった。

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 言い方を変えれば「尊厳維持装置」は「大多数の大衆が重視するもの」であって、前項最初の「正義」の定義に則ればそれの維持管理は「正義」である。一方で作中さよが行っていた悪人刈りも、彼女の思想信条では正しいことを成している以上、これも「正義」と考えうる事ができる。

 

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正義を性技ってタイポしました

 

 そして作中では「尊厳維持装置」を維持する特殊部隊がさよを捕縛しようとするわけで、この時点で「正義」が衝突している。この衝突から何を見出すかは読者諸兄に任せるが、私はここから「正義」を成すことは「大多数の大衆が重視するものを維持する行為」ではないと読み取った。

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仕方ナインですよね()

 

 第4章「D.彼岸の獣は言葉を喰んだ」は「人格」は何が担保しているものなのかがテーマとなったと考えるが、正直疲れたので記載を割愛する。

 

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「記憶がなければ人は存在しえない」

 

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「作った作品とその身と全てを炎に焚べ存在ごと消えた女性」

 

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「生きたいと願った人間がどうして頭を撃ち抜かれた程度で死なねばならないんだ?」

 

 などなかなか示唆に富んだフレーズがたくさんあるので、実在論が好きな方は読むと楽しいと思う。僕は楽しかった。

 

 

 「尊厳維持装置」というなかなか物騒なギミックを持ち出しておいて、存外自殺の是非に関する内容以外の主題を述べていたのが本作である。演出面など同人ゲーというものはかくも進化したものか、と昨年発売の「恋ニ、甘味ヲソエテ(8)」の演出面なども見ていて思った。

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ドキドキしちゃう

 とはいえ本作では全てのシナリオが「俺たちの戦いはこれからだ!(9)」で終わる。竜頭蛇尾というべきか、Storyとして尻切れトンボだとこのように倫理的命題を色々と捏ねくり回すような読み方しかしようがないものである。その意味で本作を友人の方に積極的に勧めにくいと思えてしまった。

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4章の終わりがこれです。尻切れトンボ……

 

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twitterで使えそうな一枚


(1)CisLugI 公式サイト

nextvillage.sakura.ne.jp

(2)4game

www.4gamer.net

(3)Youtube CisLugI オープニングムービー

youtu.be

(4)Goo 国語辞典 命の意味

dictionary.goo.ne.jp

(5)自殺観の歴史的変遷・文化的差異について Sueki Slideshare

www.slideshare.net

(6)愚行権 Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9A%E8%A1%8C%E6%A8%A9

(7)厚生労働省 WHO 自殺予防 メディア関係者のための手引き 2008年改訂版

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133759.html

(8)恋二甘味ヲソエテ 公式サイト

www.canxdensoft.net

恋二甘味ヲソエテ1の弊感想はこちら

suxamethonium28.hatenadiary.jp

(9)俺たちの戦いはこれからだ! Pixiv辞書

dic.pixiv.net