湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

キミのとなりで恋してる! 総評感想

キミのとなりで恋してる! 総評感想
執筆者:やーみ @suxamethonium28

※ネタバレ注意(ラスト一枚絵掲載あり)

 

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 おぅんごぅる氏の変態性(褒め言葉)が遺憾なく発揮された本作は、ミドルプライスでシナリオの長さが制限されているという要素もあってか、リズミカルにテンポよくシナリオが進んでいった。

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仲良きことは美しきことかな

 おぅんごぅる氏は元から生理に並々ならぬ関心があって(0)、今回の作品においてもスポーツアスリートの無月経という観点からシナリオを転がしていた。私にとっては全く思い至らない発想であり、氏の慧眼には驚きを禁じ得ない。

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そのうち怒られないか心配です

 物語進行のテンポの良さに関しては、様々なところで指摘がなされているため本稿では割愛する(1)。この意味で本作は良作である。

 


 個人的に特筆しておくべきかと考えたことは、読了後のタイトル画面変化に関してである。Alcotにおいては物語開始時と読了時でタイトル背景が変わることが知られている(2)。例えば「Clover Day's」においては海の見える丘展望台の時間帯が変化したし、「あえて無視するキミとの未来」においては学校の建物から夕暮れ時に部室で眠る部員のみんなに変化した。これらの演出は僕の中では読了後の「いとあはれなり」という感情を惹起することに寄与するため大変好きな演出である。

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真鍋さん、いいキャラでしたね

 (余談だがこの方式は結構標準装備にであるように感じる。逆にこの変化したあとのタイトル背景を一般に流布すること自体がネタバレに近い扱いを受けかねないため少々留意が必要なのかもしれない。)

 

 さて私は先輩→莉奈→なぎさの順番でプレイしたわけだが、図らずも大当たりの順番だったようだ。なぎさのルートのEDムービーを見て、エピローグの一枚絵が表示されたあと、その一枚絵がそのままシームレスに読了後のタイトル画面に移行した。

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エピローグからのこれである

 変更後のタイトル画面は幼少期(ランドセルを背負っていることから小学生と推定される)の主人公と莉奈とが並んで歩きながら後ろを振り返り、一歩遅れて歩くなぎさの方に笑顔で話しかけるというもので、夕焼けに向かって下校しているシーンであった。幼なじみとしての寂寥感をもたらす大変印象深い一枚絵である。まさにタイトルの通り「キミのとなりで恋してる!」であった。


 そのままの良い読後感のままExtra storyを読みに行き、恵のアフターストーリーを読んだ。恵の「お兄ちゃんになぎささんと別れてほしい」という慟哭を聞き、「キミのとなりで恋してる!」のは攻略可能ヒロインだけではなかったのだ、と感慨を覚えたことは記憶に新しい。

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恵の吐露。見事なタイトル回収である

 そのシナリオを読み終わったところで、もう一段タイトル背景が変化した。

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 上述の夕焼けのシーンに恵が加わった。それでいて恵は一人だけ「莉奈なぎさ秋人」の3人集団を見ておらず、ただ前だけを見ていたのだ。このタイトル変化のニ段構えは私の感情を揺さぶる上で十二分な働きをした。後述するが、あまり良い印象を抱いていなかった本作の評価をひっくり返させられたものであった。

 

 

 さて何が良い印象ではなかったかを示しておくと、端的に言って祖母の老害さである。

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申し訳ないですが、お祖母様、その顔は気色悪いです

 以下全て個人的な妄想になるが、個人的にこの作品を評価する上でどうしても触れておかねばならない要素がある。それは「世界観設定の結果生じた歪みをどうするか」という問題である。この物語においては莉奈・なぎさ・秋人の三角関係をどのように破綻させるか(言葉は悪いが)、そして秋人と恵との共依存関係をどのように破綻させるか、がシナリオ展開上のキーになっていた(3)。

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 三角関係を破綻させることで莉奈やなぎさと結ばれる世界が初めて与えられ、そして兄妹の共依存関係を破綻させることで秋人が初めて自らのやりたいことに素直になることが出来る。そして特に幼なじみの三角関係を破綻させるのは時間による解決のみでは不可能で、古今東西三角関係を描いた物語では何らかの機構が働いていた(注A)。

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破綻と言っても友人関係は成立しうるのです

 本作品において幼なじみ三角関係を破綻させる機構・役割は、祖母と知花先輩に与えられた。祖母は破綻機構の骨格・ハードウェアを形作り、破綻劇の舞台を作り出した。強制的なお見合いの場を作り出し、同棲の舞台を提供した。

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ただの毒親案件である

 そして知花先輩は祖母が作り出した舞台の内部からソフトウェアとして侵入し、三角関係の破綻を引き起こすトリガーを引いた。

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先輩のキャラクターとして矛盾なく受け入れられるので、巧い引き金要員ではあった

 困ったことに知花先輩は攻略ヒロインとして扱われることとなった。つまりこの特殊な「三角関係を破綻させるためだけの機構」という世界設定の歪みは祖母の双肩にのしかかることになった。結果祖母はどう足掻いてもいわゆる「老害」的キャラクターにならざるを得なかったのかもしれない。

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ポリコレ棒でボコボコにされればいいと思うよ、この祖母

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ポリコレ棒でボコボコにされればいいと思うよ、この祖母 その2

 

 ここまではまだ良い。祖母の老害度合いが高いのも物語進行上仕方がないことであろう。さてこの作品において個人的に最も度し難いことは、その「歪みの象徴」である祖母を、主人公が肯定的に受け入れることである。

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 もっと厳しい言い方をしよう。この「歪み」への作中批判は莉奈からの一回限りであって、他の登場人物たちは主人公含めそれを肯定していることである。主人公も、なぎさも、知花先輩も、恵も全てそれを受け入れているのである。莉奈の唯一の作中批判にも、批判に対する弁明は一切なくただ「黙れ」以上のコメントを返さない。そしてその批判をした莉奈に自らをおんぶさせて帰らせるという徹底の様である。

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この祖母と莉奈、どちらがより「秋人のため」かは読者諸兄の判断に任せます

 いっその事これらの「歪み」を完全に本編の外に飛ばしてしまうのもありであったのかもしれない。古のテンプレエロゲに見られた「何故か海外出張に行っている両親」がごとく。


 上記意味で私にとっては祖母がどうにも受け入れられない不愉快筆頭キャラクターに成り下がっていた。共通を耐えきり三角関係の破綻の引き金を引いたあとにはフェードアウトしてくれるかと思いきや、なぎさルートの最後の方にもトマトケチャップでリバイバルである。思わず祖母のセリフを途中からSKIPしてしまった。

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 上述の通りこの作品においては祖母が結構不愉快なキャラクターとして作られてしまっていた。ギャグ漫画時空として全てを水に流せる読者であれば問題ないが、ある程度の数の批判がErogamescape上でも見られており(4)、この意味では失敗だった試みかもしれない。ただしそれ以上に上述のタイトル背景の変化で惹起する読了感が大変によく、祖母の悪印象を拭い去っていったと私は感じた。読みやすく小気味よい文章もあって本作は良作であると感じた。

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参考文献 脚注
注A
 例えば弊感想の筆者が最も好きな「見上げてごらん、夜空の星を」における幼なじみ三角関係の破綻は、天ノ川沙夜が遠い昔に作ったラブレターであった。

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「本日臨時休業」ではなく「○月×日臨時休業」と書きましょう、という貴重な教訓である



 

(0)DLsite 死神の接吻は別離の味 
生理用品を自らの兄に買わせるタイプの妹

http://www.dlsite.com/pro/work/=/product_id/VJ005184.html

 

(1)Erogamescape nanachan氏の「キミのとなりで恋してる!」の感想

https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=20913&uid=nanachan

 
(2)「Clover day's」感想 まったり流星日記
http://winterr.blog.fc2.com/blog-entry-30.html

 

(3)
三角関係の破綻・棘を本編外へ飛ばす、などの着想を得た。
https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=20913&uid=Sek8483

 

(4)
ErogameScapeにおいて散見された感想である。以下祖母に否定的なニュアンスの感想を挙げておく
https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/user_game.php?user=Sumile&game=20913#soft-title
https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=20913&uid=geek_agent
https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=20913&uid=kotun