湯豆腐のようななにか

はじめに少しだけ気合を入れて。その後はだらんと。

ノラと皇女と野良猫ハート1 総評感想

ノラと皇女と野良猫ハート1 総評感想
執筆者:やーみ@suxamethonium28

※基本的に「ギャグが面白かった」の一言で終わる感想です

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ギャグ漫画時空

 

 
 なるほど。これは面白い。

 地上に死をもたらすために冥界から現れた三姉妹と、反田ノラを筆頭とする地上やんちゃ組との交流を描いた本作である。この作品内部で主張されるテーマは概ね「家族」の一言に集約させていいと思う。これらのテーマについては同意できる部分と同意できない部分が存在していたが、この作品の本質はそこではないと私は思っている。

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これは同意できない。この世には不幸にも毒親は確かに存在するので。



 

 

 実際に本作のシナリオ担当である「はと」氏(なお本作はクレジット上ははと氏単独ライター)とメーカー「HARUKAZE」広報担当者はインタビューにて以下のように語っている(1)。

 

以下引用
── 確かにゲームに付属するという大胆な売り方も、短編アニメならではですね。

広報:あと「短編アニメでも『HARUKAZEの新作』だと言えるものが作れるぞ!」と確信がありました。モリケンさんというギャグの理解者がいて、さらにはと自身が脚本も書くという体制ができたので。家庭用版の予約状況も好調です。

はと: 自分はそんなに深い考えとか営業戦略は持っていなくて、「どう遊んだら楽しいのか」だけをほとんど考えています。それを面白がってくれる人がいればとてもうれしい。今回のアニメも大義名分とかより“夏休みの40日目いっぱい使って遊ぶ”という感覚でいます。

広報: 元から原作自体にショートショートのコントがあって、短編アニメでも相性が良いだろうと考えてましたし、それで「ノラとと」らしさがなくなることは絶対ないだろうと。
(中略)
── 原作の掛け合いのスピード感とうまくかみ合った形になっていますね。

はと: 自分は書き言葉よりも口語というか、音にしたときの言葉、しゃべり言葉にすごく興味があるので、そのリズム感を突き詰めていければと。単純なことでいえば、短いセリフが続く中にパッと長セリフとか。

 反対に、文字送りをする間隔が短ければ短いほど読み手とこちらの想定するテンポが近くなることもあるでしょうし。何だかんだでリズム感だと思います。

広報: 「ノラとと」は相当セリフを短くして、単位時間あたりのクリック数、場面転換の数は他社より多いので、素材は他作品より多いんです。そのあたりの密度がテンポ・リズム感につながっているように感じます。続編ではよりそこを重視しています。
以上引用

 

 引用した内容から私が考えるに、「ノラととらしさ」とはショートショートのコントを重ねていく事によって作り出されるものである、とということであろう。製作者側が「この作品はショートショートのコント」だと述べている以上、やはりこの作品の楽しみ方はこれらのギャグやテンポ感を楽しんでいくものであろう。本稿ではこの視点で感想を述べていきたい。

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テンポ溢れるシモネタの一例

 

 ゲームを起動し「はじめから」を選択したあと、まず最初に目を引くのはエロゲー独特の謎ポエムである。
「人が獣に変わるとき、それは美しい伝説になるという」

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誰かこのエロゲ冒頭ポエムまとめ作っておいて

 

 この謎ポエムからの掛け合いは「地上の生命を絶滅させよう」という話であって、なかなか物騒である。ややシリアスな雰囲気をもって導入された直後、実際に「地上に死をもたらす」役割を与えられたパトリシアというヒロインが地上に現界する。このシーンで即シリアスな雰囲気を破壊する。
「ざざーん。ざざーん。波の音だけむなしく響きます」

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ざざーん、の読み方がいい

 

 すぐに場面は主人公反田ノラの家に転換し、同居人のシャチとのじゃれ合い。その後死んだ母を偲ぶシーンが挿入されたかと思うと、一部で有名な「我が家がバーニング」のシーンが来る(2)。この「バーニング」のくだりの雰囲気は明るく、ギャグシーンで用いられるハイテンションなBGMがその時に流れている。異端排斥と思われるシーンにもかかわらず。

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起きている事象は弩シリアスなのに面白い

 

 これらのように特に共通ルートの間には「少しセンチメンタル、もしくはシリアスな雰囲気」を演出した直後に、「ギャグでその雰囲気を破壊する」という展開を重ねていく。この切替の落差が毎度毎度ギャグシーンとしての切れ味を上げているように、私は感じた。

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数クリックでこの落差


 あと特筆しておくべきと思う事柄として、ナレーションの台詞回しとその読み上げ方を挙げておきたい。一般的なアナウンサーとしての現行の読み方ではなく、どちらかといえば朗読のそれに近い読み方である。ただの地の文として記載されるよりも、読み手の感情表出やライターの強調したい部分が明瞭になりやすく、情報量が多くなる。「ショートショートのようなコント」を成立させていく上で、彼女の果たした意義は大きいと思う。

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安心と信頼のサカリ




 Laplacian「キミトユメミシ」の感想でも述べたが、ギャグは説明するものではない。それを無理やり語ろうとすると上記のような感想になる。何はともあれ面白かった、という感想を述べて、本稿を終わりにする。


※引用の定義として「引用物が従であること」があるが、本稿では分量的にやや怪しい。
「ギャグ面白かったよ」では意外と(順当だが)膨らまなかった、ということで勘弁願いたい。

 

 

(1) 美少女ゲーム原作アニメの歴史 「ノラと皇女と野良猫ハート」HARUKAZEインタビュー - ねとらぼ

nlab.itmedia.co.jp

(2)我が家がバーニング google検索

https://www.google.co.jp/search?q=我が家がバーニング